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24時間Illustrator「愛(Ai)はクリエイティブを救う」

[023] 悪夢

夢を見た。この年齢になっても、冷汗をかいて、飛び起きるようなのを。

夢の中でサイトのリニューアルを検討していた。エンジニア代表と基盤系代表とデザイナ代表の私のチーム。我々だけが当初から呼ばれた訳ではないチーム。

要件定義をして、システム設計をして、さぁ作り出そうといった時に、何かお化粧がいるよね、となって呼ばれた。話を聞くと、エクセルで書いたポンチ絵を綺麗な gif にしてくれれば良い、とのこと。しかし、そのサイトがどのように使われるのかの検討がなされていない。ただ漫然と検索し易いような機能がチョコチョコと付け足されただけでリニューアルだと言われた。ここに設計されているシステムにお化粧直しをして、素晴らしいモノにしてくれと。自分達が馬鹿にされているようにも感じたけれど、Webを何だと思っているんだと引っかった。

実際にその運用に当たる者へのヒアリングも、その負荷計算もされていない。明らかに実際には回らないシステムの設計図のようなものが分厚い冊子の中に記されていた。思いつくままに、どう使われるのかを質問する。その度に、「それはここに書いてあったでしょう、どこだっけ」と担当者はその冊子を繰る。即答されることはなかった。俺たちはエンジニア様なのだと顔に書いてある。俺たちが設計した通りに、ユーザが使いなさいとも書いてあった。

なんだか胸が締め付けられる感覚に襲われる。このままでは、この子(サイト)が殺される。夢の中の自分の心に誰かが叫ぶ。助けてくれ。お願いだ、ディスクのゴミにはしないでくれ。そうはさせない、とつぶやく。

どう質問しても、複数いる担当者から、そのサイトが自分のサイトだというニュアンスが伝わってこない。自分の担当した仕事を可能な限り最小にすることだけを目標に進んでいる。私は仕事をしています、と何処かにレポートできるだけの仕事。そして運用の場面での責任を可能な限り、誰かにフってしまおうとするミエミエの態度。どこかで使ったテクニックを、何も考えずにそのままこのプロジェクトに当てはめている。どこかの手引書に書かれてあるシステム構築上の注意点のような垢まみれの言葉が宙に浮く。どこにもこの子の親がいない。

イラツキながらカレンダーを探していた。今はいったいイツなんだろうか。本当に21世紀なのか。5年以上も前の打合せでも、もう少しましだった。巷で言われている、ユーザ体験とかユーザビリティとか、そんな言葉の存在さえも知らないように見えた。自分の「使命」が分かっていない。データベースを作ることが使命なのではない。安定なシステムを選定セッティングすることが使命ではない。使われるサイトを創ることが使命なんだよ。

怒りが爆発しそうになり、それまでオフィスに見えていた会議室が、突然和室に変わり、無機質な机がチャブ台に変わり、それをひっくり返してしまったところで夢から覚めた。息が荒くなり、馬鹿野郎と危うく本当に声に出してしまうところだった。「まだ、こんなことがあるのか」。そんな夢を見た自分にも腹が立っていた。

夢から覚めて、出張に行った。領収書が欲しくて、切符を買うのに窓口に並んだ。行き先を告げる。
「すぐ乗られますか?」
「はい」
「では、この指定券で...」
「...できれば自由席で行きたいんですが...」
「え? 自由席ですか...。じゃ、この切符で」
「電車はすぐ来ますか?」
「お調べしないと分かりませんね、調べましょうか?」
窓口のフロアには自動販売機がある。それを使えば会話無しに切符は買える。領収書だって指示すればもらえることに後で気がついた。この男は自分が発券機の前に座り客に切符を売るという仕事が分かっていない。自動発券機に勝る点がなにもない。腹が立ってきたので、きっと睨み付けてしまったのだろう。その男は何も言わずに時刻表を取り出し、次の電車の時間を言った。

結局その男がいった電車は、「次の次」の時間だった。窓口を出て改札の上に時間が出ている。連絡がどうなっているのかも知りたかったから窓口にも行ったのだが、結局あと1分で発車という電車に飛び乗った。気分は悪かった。今朝の夢は正夢だったじゃないか。こんなのが未だ居る。

出張での仕事が片付いて帰路に着く。切符を買いに懲りずに(自動販売機が見えなかった)窓口に向かう。行き先を告げると、5秒ほど考え込まれた。なんだか不安を感じる。でも返ってきた答えは、適切な接続の情報だった。急いでホームを駆け上がれば間に合うかもしれないが、と情報をくれる。最短で帰りたいと言えば、指定席になりますが、と私の財布に配慮してくれる。この人、根っからの駅員さんだ。

なんだ、当たり前の駅員さんもいるじゃないか。なんだか嬉しく、気分がいい。そう言えば、電車の中でもこの地域に入ってからの車掌さんの態度が少し違った。車両に入ってくる時の礼の深さが違う。そこまで丁寧にしなくても、と思いつつ、悪い気はしないと感じていた。この地に下りたときの改札のニィちゃんもなんだか笑顔で、「今、ルミナリエやってます、見て行ってやってください」と言ってくれた。なんだか暖かい。あぁこの人はこの街が好きなんだ。何かが伝わってくる。

サイトを見回っているとき、この作り手は商品だけを気に入っているんだな、と感じることがある。それすらない所も多いけれど。でも、市場の買い物などを思い出すとき、商品だけじゃない何かを感じ取っていた気がする。市場そのものが好きだった。その場の持つ雰囲気や、息遣いとも思える何かが好きだった。

あの朝の悪夢を思い出しながら、そういった雰囲気をどうやったら創れるかの答えは出せないが、どうやったら創れないかは見えてくる。好きな者達が本気で集わないで、誰かを惹きこむことはできないのだろう。自分の能力に絶対の自信をもった現場を知らない者たち。自分が良い仕事をすることに誇りを持てない者たち。責任のボールを投げ合って時間をただただ浪費する者たち。多分そんな中からは、何も生まれない。創られた場にも魅力はない。

5年以上前に聞いた話を思い出した。偶然聞いていたラジオでユーミンが人生相談に応じていた。「どうやったら歌手になれますか?」「う~ん、何かになりたいって思っている間は、なれないんじゃないかなぁ。歌が好きで好きでしょうがなくて、ただただ歌っている間にこうなっちゃったんだもの」(うる覚えなので言葉は違うと思います)

能力はともなわないが、Webへの愛着は今年も増した。毎年増している。そういう進行形の状態を幸せだと感じられるようになってきた。

以上。/mitsui

結局ルミナリエは22:30消灯なので間に合わなかった。