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24時間Illustrator「愛(Ai)はクリエイティブを救う」

[092] 競争と感傷

AdobeがMacromediaを買収。このニュースのおかげで、一週間ほど脱力感が切れない。両社とも現在進めている次期版には影響はないと明言しているし、そもそもツールが変わろうと、Webに関わる者の仕事が変わる訳ではない。それは理解した上で感傷的になっている。

少し情報の整理をしておこう。買収規模、総額34億ドルの株式交換。Webに限った話で言えば、最近はMacromediaの方が勢いがあった。しかし、会社規模から言えば、Adobeの2004年における業績は、売上高が前年比29%増の16億3000万ドル、純利益は同69%増の4億5040万ドル、時価総額148億3000万ドル(独立系ソフト企業としてはMS、オラクルなどに次ぐ世界第5位)。対するMacromediaは、売り上げで前年比20%増の4億2200万ドル。同レベルで競り合っていると言うには少し規模の差が見える。

それでも両社は、早くから「ライバル企業」という関係にあり、同じユーザ層を対象として競い合っていたイメージが強い。大きな展示会が多く開催された時期とも重なり、両社のプレゼンを聞くためだけに幕張メッセに足を運んだものだった。

両社の競合が頂点に達したのは、2000年。特許侵害で互いを訴え合う事態に発展した(2001年に和解)。この時、多くのユーザ(基本的に両社のユーザであって、片方のみのユーザは少なかったと思われる)は、どちらを応援する訳でもなく、ただ使い勝手の良さが、特許の名の下に、欠落されるのを心配した。

この時点で、ユーザはどちらかの信者になるのを止め、機能を受け入れるかどうかを中心に考えていて、切替を面倒に思いながらも共存関係を受け入れていたのではないだろうか。AdobeファンとMacromediaファンが、犬猿の仲という話は聞いたことがないし、互いの機能の話を互いに聞き耳立てて聞くような関係だった。

和解を機に、棲み分けがはっきりしたとも見えた。AdobeはPDFへの投資を増やし、「Adobe Designer」という名でXMLフォーム設計ツールを発表する。この名が、いわゆるデザイン製品に付けられなかったことに衝撃を感じた。Macromediaは紙分野への進出を諦めたようにも見えていた。そして、どちらもが必要としていたのが、サーバ技術。デザイナの見えない世界で何かが動いていたのだろうか。

そして、一つの会社になる。ユーザの中では、統廃合される製品の話で持ちきりだ。そして、統合される機能やユーザインターフェース(UI)に期待と不安が交じり合う。

今は当事者の誰もが言葉を慎重に選んでいるが、その中でも慎重な言い方をしている場合、「買収」よりも「合併」という言葉を用いているように感じる。一方が他方を吸収したというイメージよりも、両社の良いとこ取りの新会社が誕生するというイメージを選んでいるかのように。

冷静に考えると、今まで似たような二つの製品を買っていたのが、一製品で済む訳だし、メリットは大きい。しかし、何かが引っかかる。この両社が一つになってしまうことに抵抗がある。

別にAdobeが嫌いな訳ではない。今はFlash系でMacromediaの方に近いポジションにいるが、Photoshopがあったからこそ、この業界に流れて来たし、今でも一番愛用しているのは、Illustratorだ。それでも二つの企業の「競い合い」が業界を引っ張って来たのではないかと思えてならない。

両社の合併は、競合製品をつぶし合う戦いの結果には見えない。両社は共通の「競争相手」に挑む体制を整え始めたと見るのが一般的な見方だ。OS企業。デザイン業界の競合相手ではない、プラットフォーム企業。Microsoft。

これが感傷的にさせる点だと思う。Microsoftは、Macromediaを買収するとの噂が流れたこともあり、次期OS”Longhorn”では、この両社に対する競合機能を多く搭載すると言われている。抗PDF対策として文書の携行性に関する機能追加や、Flashキラーの搭載。現に、Microsoftは一番Flashに近いドロー形ソフトである、Expressionを既に買収している。

そして、両社を動かしたもう一つの言葉は、「ケータイ」らしい。そもそも、日本ではFlashLite 1.0が一般的だが、もう少し色々なことができる1.1が海外では広まっている。更に、携帯端末自体の仕様も異なる。左右ボタンを、アプリケーションが識別できる(日本のケータイは上下ボタンだけでゲームをやる程に難儀だと評した友人がいる)。

そして、あと5年以内に携帯電話の75%がマルチメディア機能を持つとも予想されている。明らかに市場として明るい。似たような機能で競い合って、仕様を二分するようなことをせず、大きくなるパイを大きいまま頂いてしまえというのは、当たり前の戦略だろう。

以前、Macromediaの説明でも、より大きな市場への拡大(ケータイへの進出)を明確に謳っていた。両社は共に、より大きな市場へとステップアップしていく時期なのだ。

子供の頃、近所に「コーベ屋」という駄菓子屋があった。汚い店で、何か買うたびに面倒そうにオバちゃんかオッちゃんが出てくる。二人とも年中怒っているような顔をしてたが、世話焼きだった。「元気か?」とか、「最近来んな」とか無愛想に話しかけ、当たりくじを見せると時にはオマケをくれた。

そこは、仮面ライダーカードや駄菓子やたこ焼きを通じた、子供達と大人の接点であり、社交の場だった。そこが、綺麗なコンビニに変わり、スーパーマーケットに変わっていた。鼻をたらした子供達はそこにはもう居ない。綺麗なお母さん達が毎日のおかずを買いに来る。売り上げは、駄菓子屋の比ではないだろう。でもそこはもう名実共に「コーベ屋」ではない。

そんな店を思い出した。企業の拡大を否定するわけではない。それが「発展」と呼ばれるものなのだろう。しかし、何かを置き忘れている気もする。そんな波が、デザインの先端ベンダーに押し寄せて来た。

デザインツールがどうのと言うレベルの話ではなく、両社のIT業界での生き残りをかけた戦いなのだろう。どっちのUIが良いとか好きだとかの話しではない。そんな「コダワリ」を徹して消えていった企業も数多い。

両社は、「デザイン」を一般的なものにするのに貢献してきた。色や形や動きを一般大衆が操作して試行錯誤できる形にしてくれた。そこから学び取ったものは、数え切れない。機能や知識だけでなく、同じ感性をもつ友人達との出会いすら演出してくれた。

それが、拡大/発展というビジネスラインに乗っかって遠ざかっていくような感覚がぬぐえない。デザインと言う場ではなく、ビジネスという場での戦略。

両社はともに、「コミュニケーション」の大切さを説いて業界を引っ張ってきた。いつも新しい何かを目の前に示してくれた。今度は、企業のあり方としても、身近で大きな新しい企業の形を見せてくれることを期待したい。この感傷的な気分を吹き飛ばしてくれるような、元気で魅力ある新生Adobeに。

以上。/mitsui