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[161] 電子書籍、突き進むべし

「自炊」と、自己人体実験を繰り返している。自炊とは、書籍を裁断してスキャンして取り込む作業の総称。人体実験とは、どの程度のことが許されて、何にイラつくのかを試す作業。

自炊で言えば、裁断からスキャン、そして検証(ページ落ちやズレなど)までの時間的な測定。多くのデータが、ちょっとググれば出てくるけれど、やはり自分で試さないと分からないことは多い。

特にコンテンツに関する嗜好性によって、設定方法は異なるだろう。私の場合、5割が漫画、2割が小説、残りが技術系。傾向的には漫画は微増(昔の捨てられないものが圧倒的)で、技術系が増加中。共通項は、写真は少ないが図が多い。更に、部分的にカラーが入るものが混じる。総じて漫画は昔の方が手の込んだ製本が多く、自炊にはそれなりに気を使う。

自炊処理としては、単一の処理を集中した方が効率が私には良さそうな感じなので、白黒だけ、カラーだけと処理をして、PDF結合でまとめる。作業的には、3:2位の割合で裁断とスキャンをして、最大でも3時間程度にするのが、苦に感じないコツ。それ以上だと肉体労働色が苦痛に感じだす。また、OCRをかけるとKindle2ではページ送りが極端に遅くなるなど、未だ未だデバイス依存があることも分かっているし、その意味で自炊済み具材を捨てにくい状況が続く(かと言って再度スキャンし直すかどうかは微妙)。

人体実験としては、読む場所や集中度、その他活用に関しての主観的な事柄。克服したいのは、基本的には通勤時間帯。mailニュースやTwitterでの情報収集も有効ではあるけれど、自分がお金を出しても学ぼうとしたことを読む時間がなくて辛い。

▼asahi.com(朝日新聞社):電子書籍、読む速さ低下 満足度は同じ 紙と比較調査 - 文化 http://www.asahi.com/culture/update/0707/TKY201007060729.html

そうした観点では、上記の調査は私にとっては殆ど意味がない。ゆっくり座って本を読むときのデバイス別快適度調査に興味がない。ゆっくり読めないけど、読みたいから工夫している。理想的な読書スタイルが現実的なら、電子書籍は正に本の再現だし、そのUIに勝負が付けば、書架節約率だけの競争になる(それはそれで魅惑的だが)。

ただ、この調査で面白いのは、パソコン(PC)との比較だろうと思う。明らかに、読書に関して低い満足度しか得られていない。

 比較のため、パソコン(PC)でも同じ小説を読んでもらった。その後、使い勝手に関する満足度を7段階で採点するアンケートをしたところ、iPad、キンドル2、紙の本は、それぞれ5.8点、5.7点、5.6点とほぼ同じだった。パソコンは、3.6点と低かった。

ここでいうPCが何を指すのかは、よく分からない。Adobe Readerなのか、他の専用ソフトか、あるいはそれらが搭載されている統合環境としてのPCなのか。私的には、PCは他のことができ過ぎて読書に集中できないことが一番ネックで、次はPDFリーダが貧弱すぎるのが障壁。漫画のトーンの表示に関して比べれば差は明確で、PCではモアレ(網目のつぶれ)が酷い。更に適正な大きさに調整することが微妙に面倒。検索したり、文献をコピーしたりする作業には、最適に近いのかもしれないが、やはり読書へのノイズが大きい。更に考えれば、姿勢なのかもしれない。PCモニターと顔との位置関係は、読書には余り向いていない気がする。

実験の中で感じているのは、PC系(情報操作/詳細検索)+ケータイ系(オーガナイザー)+Kindle系(閲覧)の三種コラボ辺りに収束する予感。それ以上には減らない、そして今PCとケータイで済ましている現状に問題があるのではないかという予想。この三種をの必要性は実は今でも変わりなくて、大抵の会議には、ノートPCと紙資料とケータイはぐちゃぐちゃとACアダプター込みで持ち込んでいる。

会議が集中している日は、溢れんばかりの資料と機材を束ねて、引越ししているような感じさえする。時々はトートバックに詰めて会議室を移動する。無様ではあるけれど、移動が問題なのではない。全てがデータとして管理されていれば良い訳でもない。短い時間内に手際よく諸々決めるためには、PCだけでは余り効率的ではなく、だから工夫している。

映画などに出てくるような、全てのデータがクリック(或いはタッチ)1つで検索されて、見やすく一覧され、更にドリルダウンできる環境は、SIerがそこに価値を認めていない現状では未だ未だ先だろう。しかし、それが達成できたとしても、会議が円滑に進むかというと少し微妙だと思っている。

いつも、頭によぎるのは、「AKIRA」の1コマ。極秘情報が微妙に漏れるきっかけのシーン。膨大な予算案の表の横に、「アキラ」と落書き(メモ)された紙切れ。それが確信や疑念を膨らませて、ドラマの緊迫感を高めた。

思えば、教科書も書かれてあるコンテンツのみが大切なのではなかった。文字が読めないほど描いた落書き、ページの端っこを埋めたパラパラ漫画。授業と関係ないことばかりだった気がするけれど、私にとっては大切な情報だった。

この辺りまで考え出すと、もはや単なるデジタル化だけの話ではなくなる。今まで自分達がしてきた情報処理の根本から再考する必要がある。電子書籍は、そのための大切な一歩だと思う。

デバイスとしては、(主にPDFの)表示速度とメモリ容量が問題となるのだろう。様々な実機を試せる場所は少ないけれど、幾つかの展示会で触ってみている。もっとこうした場が常設されることを期待したい。

モニタ部分が、液晶になるのか、Eink系になるのか微妙だけれど、後者だとしたら、画面のリフレッシュは重要な要素だ。あのチラつきを気にする人は多いだろう。白黒がカラーになるのにも、それ程時間はかからないようだ。けれど、現時点の実験結果からすれば、私には白黒で充分なものが7割以上だと思われる。どれが自分の感覚にマッチするかは、実際に見てみないと分からないだろう、iPod時代のイヤホン選び以上に大変な作業になるだろう。今のうちに目を肥やしておかないと。

あと、iTunes的な母艦も必要だろう。メモリ量がどんなに増加しても、持ち歩くものである以上、紛失のリスクは避けられない。そして、今Kindle2で試している感覚では、最低でも500冊のレベルで持ち歩きたい。馬鹿げた話かもしれないが、iPodで500曲を持ち歩いている人は普通だろう。今に本もそうなる。そして、500冊を持ち歩く=500冊を一度になくす可能性がある、ということだ。だから、母艦が必要になる。バックアップは避けられない。更に、総合的母艦に育てるなら、同じコンテンツの別バージョンに関する割引システムも必要だ。もう、同じコンテンツをベータ/VHS/DVD...と買い換えるのは勘弁して欲しい。

今、書籍系ではこの辺りを利権絡めてゴニョゴニョやっているのだろう。今の書店を守るとかなんとか言いつつ、すっごく使いにくいUIとややこしい手続きが襲い掛かってくるようで怖い。だから、自炊に踏み切った。あと10年位は、PDFというファイルフォーマットは生き残るだろうし、デバイスはドンドンと安くなるだろうし、自分だけの快適さを求めてもバチはあたらないと決めた。

さっさと新しい仕組みに行って欲しい。コンテンツは後から付いてくると思う。それで、教科書のデジタル化と国産Kindleの大量生産まで突き進む。山ほどの場数を短期間でこなせば、あっという間にデジタルリテラシの上昇に寄与するだろう。その子達が、世界に出て行く。そういう投資を選ぶべき時に来た。この話は、また別の機会に。

▼環境設定メモ:
  • 裁断機:楽天オークション系で購入
  • スキャナ:ScanSnap1500をヤフオクで入手
  • 書籍:BookOff系の主に100円もの(未だ自分の財産には手をつけられない)

以上。/mitsui

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