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[163] デジタル教科書は、子供の創造性の夢をみるか

自分の子供の頃と、我が子の頃とを思い出しながら、デジタル教科書を想っている。現実的なデバイスと、先進的なユーザと、声の大きな企業家と、文科省。教育論者の声が小さく、現場担当者の先生も静観し、当人である子供達の声が一切聞こえてこないのが気にかかる気はするけれど、何度目かのこの波こそが本当に乗るべきビッグウェーブに見えてくる。

電子書籍が定着する前に、未来を担う子供たちへの導入には少なからず抵抗感はあるけれど、現時点での私にとってのデジタル教科書に必要なスペックを並べてみた:

A)最優先要件(必須)
  1. 見易いこと(含、拡大縮小)
    → 屋外室内問わずに可読性を保証すること
    → 最低6インチ、可能であれば7インチの画面
  2. 立って音読しやすいこと
    → 最大でも200g、可能なら150gを切るレベル
    → 片手で持ちながら操作できること
  3. 読むあるいは見ることに集中できること
    → 気移りするような仕掛けは不要、目的は集中力の育成
  4. 乱暴に扱えること/頑丈なこと(原則6年間使用を想定)
    → 机から落とすことは想定すること
  5. ページを指定し易く、指定したならすぐにジャンプできること
    → メイン画面以外のUIもあり
  6. 充電は最低2週間に1度でよいこと/高速充電が可能なこと
    → 電池切れによる授業の妨げを最大限に回避
  7. 安価なこと(1台目だけでなく、なくした場合なども)
    → 買換えや親用買い足しを想定すること、5,000円/台辺り
  8. タッチパネル機能をoffにできること
    → 画面に表示された文字をお手本になぞる学習が可能なこと
  9. 膨大な文書量をコンパクトに、容易に収納できること
    → 無線による教材配布がかのうなこと
    → 小学校6年間の主教材、副教材が収納可能なこと
  10. 別UIを別途接続する余地があること
    → 文字盤キーボードやピアノ鍵盤を想定
B)次点要件(基本必須)
  1. 無線を含め、使いこなすには、多少の鍛錬が必要なこと
    → デバイスを使いこなすのに工夫や探究心を要すること
  2. 音読機能
    → 国語主教材に関しては正式な声優品質での音声学習が可能なこと
    → 他教科教材に関してはマシン音読でも許容
  3. インタラクション
    → 簡単なクイズ(選択式回答)と集計と、音楽に関する教育的刺激になるものを想定
  4. ブックマーク/注釈機能
    → 備忘録的なもの。基本的には別途紙のノートの活用を前提とする
  5. ストラップ取り付けや静止画などのカスタマイズ性
    → 自分のものという意識を育てやすい仕掛けがあること
  6. 録音機能
    → 授業時など、ある程度の時間内で音声記録が可能なこと
  7. 検索機能
    → 文字検索が可能なこと(初等時には子より親が対象)
  8. デバイス間通信機能
    → 先生からの優先度高の連絡:「このページ見なさい」通知
    → 生徒間での連絡:
  9. 時間割と座席表、校歌、校則など学校独自情報などの特別コンテンツ
    → アクセスしやすい状況であること
    → 時間割には変更が行われること、緊急対応を想定すること
  10. データ交換機能
    → 連絡レベル:先生から&生徒間の短文メッセージ
    → 文書レベル:平時アナウンス、卒業文集、サイン帳
C)不要要件(禁止はしないが、実装しても評価加点しない)
  1. メモ&落書き機能
    → 手書き学習への促しとしても、実装する必要なし
  2. 動画サポート
    → 参考情報としての映像なので、副教材でカヴァーすればよい
D)コンテンツ要件
  1. 学年指定によって漢字の表示を変更できること
    → 同じ教材でも、1年生用と6年生用とでは表示される漢字が異なる
  2. ルビのon/offができること
    → 当然双方美しい行間になること
  3. コンテンツの総ページ数/現在位置とが明に分かりジャンプ可能なこと
    → 基本的にページ番号が現場での拠り所になる
  4. 図の拡大/縮小が可能かつ見易いものであること
  5. 漢字、図、索引、作者など、複数のインデックス機能を備えること
  6. ページ区切りがコンテンツ単位との整合性がとられていること
    → ページ間を行ったり来たりしないと読めない教材が少ないこと
  7. 試験範囲などの指定が、教師側の操作で一斉に設定できること
    → コンテンツ自体の修正権限
  8. レイアウトは美しいこと
    → デコレーションではなく、培った組版の美しさを目指すこと
  9. 複数のツールで作成&編集できること
    → 標準と定めたフォーマットを守ること(noMoreブラウザ戦争)

子供たちには、教室で、校庭で、日差しの下で、木漏れ日の中で、コンテンツに見入ってほしい。その思いは、上記の文字教材主体からも透けて見えると思う。正直、音楽と美術については悩んだ。誰もに才能を開花させる可能性を提供すべきかとも思った。でも、音楽はともかく、美術の色の再現までサポートするとなると大事だと思った。

それはアナログで体験すべきだろう。紙に絵筆が触れる瞬間。色数の多さに戸惑う感覚。目の前に広がる情景を二次元化する分解能力。ないものをそこに描く想像性。これを5,000円デバイスで実現するのは、現実的ではない。それらは、手を汚し、紙を汚して学んで欲しい。楽しんで欲しい。

同時に、メモ書き系も優先度を落とした。何もかもデジタルで処理することは、大人でさえ無理である。デジタルで資料を配布し、それ自体をデジタルで備忘録とし、再配布する。そんな芸当をなしている人は稀である。それを子供に求めては、教師が死ぬ。

きっとその辺りは、行ったことはないけれど、文科省が完全デジタル化され、書棚がなくなり、電子書籍系でスピーディーな対応ができてからで良いのではないだろうか。省内見学をする子供たちに、「こうするのがカッコいいんだよ」と胸を張れば良い。きっと心に残り、デジタルリテラシは向上する。

そんなこんなで、6年間手に携える教科書が手に入ったならば、どんな未来が待っているだろう。このデバイスに公式に入れる最後のコンテンツは、卒業文集だ。野球選手になりたい、大臣になりたい、科学者になりたい。屈託もなく書いた夢を持って歩ける。いや、持って歩く人は少ないだろうが、その言葉は本棚の片隅にデジタルデータで見やすく鎮座する。少なくとも悪い方向に進ませるアクセルにはならない気がする。

様々な角度からのコメントは増えてきている。中でも下記は興味深い。デジタル教科書の狙いが拡散しているのが読み取れる(今までの経験から言うと、無駄な税金投入になりかけている)。法改正しないと「教科書」ではない議論には溜息しか出ないが、推進者が教育の現場をデバイスによって変えようと思っている節があるとことが厄介だ。

▼デジタル教科書は、イノベーションを触発する契機となるか? 電子書籍を巡る狂騒とデジタル教科書導入の行方(1/3):企業のIT・経営・ビジネスをつなぐ情報サイト EnterpriseZine (EZ)
http://enterprisezine.jp/article/detail/2472

すぐに思い出すのが、マネージメントの父:ピーター・ドラッカーの言葉だ。

▼小さく始めなければならない。大がかりな万能薬的な取り組みはうまくいかない。
http://twitter.com/DruckerBOT/status/21925187866
DruckerBOT/ピーター・ドラッカーBOT

狙いは子供たちに絞った方が良い。そもそも様々な「大人」の発言に利権が絡みすぎているように見える。ドロドロの先に、清流がないことは、もはや学習済みだろう。ゆとり教育の反省も活かして欲しい。学習は苦しいものだし、子供たちは大人が思っているよりも大きい、様々な意味で。大人ができることは、その大きな種を育む環境を少し整えることと、大人のドロドロに巻き込まないことだけなんじゃないだろうか。

教育が聖域であり、教職が聖職であった時代は過ぎてしまった。学級崩壊が叫ばれて久しい。それでも、未来はあの並んだ小さな机の中で育つ。英断が成されますように。

以上。/mitsui

  • 当然上記を満たすのはiPadではない
  • Nook的なマルチ画面(表示用+操作用)は現実的だと思う
  • Kindle3は2日早く出荷らしい。待ち遠しい