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怒涛の集英社Kindle作戦が中々本気だ

年度が変わるタイミングから集英社のデジタル戦略が中々アグレッシブに素敵です。いきなり予算がついた感がヒシヒシと伝わってきますが、デジタルの可能性と今までの資産活用をとを上手く掛けあわせた巧いキャンペーンです。

無料スタートアップ本
長編マンガ各「編」の最初の2〜3本を丸々読めるようにしてまとめたもの。新たに編集の手が入っているとは言いがたいですが、いいところで「続きは…」とフラストレーションをいい感じで高めてくれます。全巻を読むには覚悟がいるなぁと思っている背中を、〇〇編で区切ってくれるので、ステップアップ方式で進む気が起きます。出版社側からすれば、最小限の手間でリブート化や更なるロングテール化を達成するモデルですね。巧いと思います。ちなみにこれらの多くは発売前から予約が可能で、その発売日になると自分のKindleに自動で送られてきます。ドラゴンボールの場合、4/1発売予定を数日前に予約購入(と言っても0円ですが)しておいたら、4/1 00:0?に届きました。
「期間限定 無料お試し版」の提供
名前の通り無料で購入?できます。長編に育ったものが多いので、当然ながら惹き込まれます。昔好きだった人は、「タダならポチっと → あ〜続きが読みたい → え〜い買っちゃえ」の三段ロケットに普通に乗れちゃいます。持っていても、しまいこんだ箱を探す手間を考えて、ポチッとしちゃいそうな勢いすらあります。
「期間限定版…」は、その期限が来た段階で読めなくなります(自動削除はしないので、自分で削除することになります)。Amazonで払っている対価は、所有権にではなく、閲覧権であることを改めて考えさせられます。
ちなみに、どの本も基本的にはサンプルとして最初の数ページをDownloadできますが、これは本体とは別の「本」です。だからサンプル版を受取ってから、本物を購入したら、同じ表紙のものが2冊Kindleに残ります。ちょっと賢くない > KindleというかAmazon。
実は、この方式はかなり面白いマーケティング手法だと思っています。TVドラマやる時に事前に原作本1巻だけ無料とか(2巻目を買わない人はどーせ見続けてくれない可能性高いし)、ダビンチみたいなので特集する時に、数時間だけ無料→その後割引→そして定価に戻すとか色々と組み合わせ技もありえる。もちろんWeb連動キャンペーンもありだし、デジタルならではの活用方法が未だ未だ眠ってそう。
各編の最初の巻は低価格
作品によって値段差があるけれど、ドラゴンボール(カラー版)の場合、1巻=100円、それ以外は400円。スゴロク的に言うと、「3コマ進む」みたいなボーナス巻。続けさせる、というか止まらせない仕掛け。おかわり自由なら、もうお腹いっぱいだけど…的な誘惑です。
従来の白黒版に加えて、カラー版の提供、しかも値段が違う
現在:白黒版=300円、カラー版:400円。Kndle(アプリorH/W)を持ている人はサンプルを送って直ぐにチェックできる。下記では何故かカラー版の方が1ページ多いです。
こうして見比べてみると、明らかにカラー版のほうが見やすい。アニメに適したドラゴンボールの色調がそもそも合う部分もあるけれど、きれいな液晶で読みやすい。
Amazon.co.jp: 黒子のバスケ STARTER BOOK 2」では、最後は時間の関係か、白黒版が収録されているが、申し訳ないがキャラクターの判別度が極端に落ちました。思い入れがあれば別なんだろうけれど、スタートアップから初めて読む人には、識別のためにも情報量の多いカラー版の方が良いのかもしれません。

さて、課題&展望

今までの電子書籍系キャンペーンの中でも、珍しくディスカウントだけじゃない長期的な視点と、何とかこの市場(というか半分Kindleユーザ増殖策)を拡大しようとするものですが、ぱっと見でも課題がない訳じゃないです。

  • 「スタートアップ本」戦略は、長期連載済み作品でしか実装できない。にもかかわらず、どの本にも欲しい。その内、作品単位ではなく、作者単位でも必要になるはず。量産できるFramework的な何かが早晩必須だろう。
  • カラー版は魅力的だが、コストがかかる。これは作品制作プロセスにも及ぶ領域。業界として取り組む必要があるけれど、先ず必要なのはパイロット版。まだこの分野は試作的な作品も多いから、今のうちにトライ&エラーを積んで欲しい(後で修正効くし)。
  • 紙&デジタルの同時リリース問題。
  • 紙&デジタルのおまけ戦略。これスッゴク大事。蓄積の問題でもあるけれど、料金の問題でもある。バラだと幾らだけれど、単品だと幾ら的な世界でもある。紙の領域が、あと何十年先になるか分からないけれど、いつかはシュリンクするのであれば、紙にお金を払ってくれている人達がいる間に、この過渡期を有効に活かして欲しい。紙の美しい組版も適正移植できれば、明るい未来が待っている気がする。
  • デジタルの強みの最大化or最適化。流通コストの低減と、後で修正できること、ツンドク機能(省スペース)の3つかなと思っているのだけれど、全部を活かしきれていない感が、未だ未だある。頑張れ、集英社&Amazon。
  • 【Amazon】検索がプア。無料本の検索もイマイチだし、青空文庫が続き過ぎるし、無料本のリコメンドが弱かったり、連続で買わせる仕組みも強くない。リアル書店の書架に圧倒的に負けている。この辺りはもっと出版社側からも伝えた方がいい。
  • 【Kindle】ソート機能がプア。自分の好みに並べられないし、多くなればなるほど(優良顧客になればなるほどの筈なのに)不便。本は所有しているという喜びもあるにもかかわらず、その所有に関する機能がプア。汚い本棚を人に見せるのには躊躇があるという感覚が分かっていないようだ。
  • 【その他】日本の電子書籍普及のために命を懸けると仰っていた方々も、参戦して頂いきたい。割引クーポンでは未来は買えんぜよ。

ここ数ヶ月Kindleで楽しませて頂いているけれど、同時に旧機Kindleは動かなくなってしまっている。米国Amazonで買ったもので、サポートにも連絡したけれど、多少のディスカウントはあったけれど、輸入代を考えれば逆に高いという結論。

でも、例えばSONY電池都市伝説ではないですが、3年償却で考えると、実はAmazonクラウドはトランクルームなんだよな、と思えてきています。本は見れば欲しくなる、でも買えば何処かに置かなければならない。何処かに貯めて行くと徐々に諸々が身重になる。だから、どこかにしまう。でもそれにも限りがあるし、買った限りは使いたい、使える状態にスタンバっておきたい。ならば、クラウドなんじゃあないだろうか。

ということで、H/Wの値段を36分割して毎月3年間利用料を払っていると考えるという方法もありかも。その分、書籍自体の単価が下がれば良いのではないか…ということで5%引き程度というレベルが問題なのかもしれない。って書籍単価という話に限れば、最初から分かってた話かw。