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[073] 迷惑電話

自席の電話がなる。独特の間合いがあって、少し馴れ馴れしく、そして直通番号ではないと想定した話し方。部署名と私の名を告げて、お願いします、と言う。私ですと答えると、失礼しましたと言いつつ低姿勢の声に変わる。初めてお電話させて頂きます、とワザとイラつかせているかのような勿体回った言い回し。要件はお決まりの税金対策として都内のマンションを買いませんか、という話。ウンザリ。

「紹介させて頂きたくてお電話しました」という台詞を聞いた途端に、「興味ありませんので」と切る事にしている。受話器を耳から離して、ガチャというまでの一秒強の間に、相手が何かを言っている声が聞こえることもあるが、気にしないことに決めている。

後々の面倒を考えて、余り無下に扱うな、と上司から指示されたこともある。大変丁重にお断りする同僚も廻りにいないこともない。先方に切って良いですね、と何度も確認し、低姿勢そのもので五分間を消費する先輩も見たことがある。でも、付き合いきれないと判断した。何故道理が通らないことに誠意を示さなければならないのか。

勿論、私の行動パターンは怒りを買う。「おまえ、そりゃねーだろう!」としつこく嫌がらせ電話をかけてきた輩も居た。電話に対する礼儀を講釈し始めた本末転倒君も居た。「今日、そっちに行くからな!」と啖呵を切る輩も居た。受話器をたたき付けたくなるような怒りがこみ上げる。時間がたっても社名と名前を言える程腹立たしい。勿論誠意を示す気にはならない。そんな商売やめなさいよ、先ず。迷惑以外の何ものでもない。

私の電話番号と私の名前をセットで持っていて、それが何かしらの営業活動に使われているのなら、それは誰かがその情報を売買したと考えるのが筋だろう。それは名刺交換をした人かもしれないし、ネット上で何かに登録したものかもしれない。しかし、私に電話がかかって来て、無下に切ると、近くの電話が鳴る確率が高い。そして、同様の数秒の待ち時間があり、興味ありませんので、という声がする。大抵の場合、会社と部署ごとにソートされている名簿が先鋒の手元にあるのが見える。売ることを前提に収集された情報が組織的に集積されている。

そうした名簿がどれほどの値段で売買されるのか知らないが、個人情報ネット流失のときに話題になった金額では、数十万人で数万円というレベルだとも聞いた。個人としての情報提供者の懐に入るのは数千円を越えるとは思えない。そんなアブク銭を、そんなやり方で手にして嬉しいのか。

名簿を売って数千円を手にして、その結果、腐るほどの腐った電話が誰かを苦しめ、無下に扱うことで実際に殴りに来る輩もいるかもしれない、刺されてもおかしくない時代なのかもしれない。命に関わるケースは身近では知らないが、少なくとも、しつこいふざけた電話のおかげで、消えてしまったアイデアは一つや二つではない。

Ridualの開発が進まないことの理由にできるほどではないが、迷惑電話は決まって大切な思索の時や何かを急いで作っている最中にかかってくる。電話の主は、こちらが何をしているのか知っていてワザと心を乱す方式で迫ってくる。Ridualのような孤軍奮闘型プロジェクトでは、常にもやもやとしたイメージを追いかけるような毎日だ。アイデアが自分の心の何処かにあるのが分かっていながら、その尻尾さえ掴めないもどかしい毎日。そのアイデアがふざけた迷惑電話で、心の奥底に再び姿を消す。

私はWeb開発に於ける最大のキーワードは「時間」だと思っている。何であれ、時間を浪費させるものを「悪」だと決めて、それに対して勧善懲悪的に進むにはどうすれば良いか、と考えるように努めている。長時間ミーティングも、おバカなUIのおかげでイライラさせられるデータ入力も、誰かに聞かないと訳が分からないシステムも、読まれないと分かっているドキュメント作成も、全部可能な限り排除すべきだとして、排除しきれない部分で悶々とした毎日を送っている。Ridualも大元は、間接的業務の多さと煩雑さが、直接的業務(Web開発)の時間を圧迫しているという観点からスタートしている。

それが、全くの第三者が更に時間を奪おうとするのだ。「モモ」の時間泥棒とは次元が違う。もっと悪意がある。他人を自分の都合で扱って何が悪いと言う開き直りに近い嫌らしさが付きまとう。

そして、この迷惑電話に対する嫌悪感で許せない事がもう一つある。Web案件に似ているところだ。

Webプロジェクトは最早黎明期の夢を追うようなモノではなく、ビジネスとしてキチンと成立させるべきものに育っているように私の目には映っている。それは、投資があり収穫があるという世界だ。そしてそうした現実をWeb屋の現場はひしひしと感じているにも拘らず、少ない投資で甘い汁を夢見る層は減っていない。そうしたプロジェクトに関わると少し気分が悪くなる。キチンと投資すべきところで投資しないで、何が刈り取れるのか。

迷惑電話が売ろうとしているものは、どんな物件か知らないが、不動産である。売買するには、それなりに役所が絡むような書類が必要だろうし、動く金額も小さくはない。れっきとした真っ当なビジネスだ。なのに、広告費をケチっている。

既存メディアに広告を打つ訳でもない、Webや口コミの流れを作る努力もしない。尋ねても答えられない経由で名簿を入手して、会社の自席に居るという状況を逆手にとって、電話をかけて勧誘する。誇れる素材なら正々堂々と広告して、そうしたものが売れる土壌を作れば良いじゃないか。

Web開発の何処に何を投資すれば良いのかを伝えているにも関わらず、Web屋の良心と変な「なぁなぁ態度」で仕様が膨らんでいく状況に似ている。断りにくい状況を理解しつつ逆手にとっている。収穫を得たいなら、不正な道や安易な道に進まずに、キチンと種を蒔けば良いのに。

迷惑電話に腹が立つのは、実は安直な道で安直に刈取ろうとする者への怒りなのかもしれない。こうした方法が通用しないということが早く常識になって欲しい。

以上。/mitsui

ps.
昔、相手の言葉の中のキーワードをうまく用いて延々と対話するコンピュータがあったそうだ。対話をとぎれないように延々と引き伸ばす、というのはそれ程難しくないのかもしれない。そうした機器が今欲しい、会社に導入してもらいたい。迷惑電話がかかってきたら、そこに飛ばす。延々と話を聞いてあげる。そうですか、へぇー、ふーん、延々と話を引き伸ばす。電話代はかかるが、収穫はない。マンションを買うとも会おうとも言わないから。ノレンに腕押し応答機。どう誰か開発しません?