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[107] THANK YOU

Ridualのプロジェクトから離れることにした。

約五年。こんなにも深く深く関われたプロジェクトは初めてだった。色んな想 いと感謝が頭の中を巡っている。

■Web開発のチーム競技化へ

2005年春、Ridualのサーバ化に着手した。Ver.2(R2)の公式なスタートだっ た。但し、構想はその一年以上前から練っていた。Ver.1(R1)の長所短所も なんとなく見えていて、一番のボトルネックである拡張性に手を出そうと決め た。

リリースする中で一番質問とお叱りを受けた、「インストールの分かり難さ」 を敢えて更に難解にする方向に舵を切る。幾つかのオープンソース系のアプリ を事前に入れておかなければならない。普通の方の敷居は更に高くなった。で も、一人が頑張れば複数の人が何の苦労もなく使える環境になる。個人技で Web開発をしていく時代から、チーム競技に変わっていくという読みに賭けた。

そして、アプリの性格を「解析」に絞り込む。設計という上流工程支援は今回 は見送った。そして、R1の「ソース解析」から「http解析」と呼べるものに変 更。これで動的なページの解析への可能性がグンと広がった。

設計仕様書やソースレベルでのチェックではない。ユーザが実際に見る状況を 解析する。今動いているものを見る。できる限り「現場」で必要な感覚をツー ル化したつもりだ。

■情報の塊と対面できるツール

ごく一部の私宛にmailをくれた人を除いて、「Webサイトを解析」する意味を 分かってくれた人はあまり現れなかった。でも、R2の実際に動く姿を見つめて いて、一番分かっていなかったのは、私かもしれないと思わされる。

Webは怖い。自分が約十年前に見よう見まねでHTMLを学んでいた文化はそのま まに生きている。実は何もかもが丸見えだ。R2は開発者が埋め込んだformのパ ラメータ名や、ローマ字書きしたファイル名まで一覧にする。CSSのidやclass 名も一目で分かる。下手な名前は付けられない。

そうした情報からだけでも、TableレイアウトからCSSレイアウトに変わって行 くという「標準遷移」を見切れている人には、解析したWebサイトが、今どの ような状態で、どんな人が開発しているかも推測できるだろう。CSSの定義内 容の概要も見えるので、お化粧直しに使っているのか、構造として捉えて活用 しているのかも分かる。

気分は暴露記者である。Webに詰め込んである様々な情報を白日の下にさらす。 嫌われると思う。怖いツールだ。でも、目を自分達に向けたとき、自作をそん な風に見れないことが、「罠」だと思ってきた。ウヌボレほど格好悪いものは ない。自作を厳しく公平にチェックできるツールが欲しかった。

100画面を越えた辺りから、事実上一人のディレクターの視界の中に全てが収 まっているという状況ではないと言える。でも、全てを自分の目でチェックし なければ気がすまないし、するべきだ。それには、もう2~3人自分が要る。

現状分析や競合分析をするとき、納品するとき、様々な場面でそんなツールに 憧れて、それの開発に関われた。Webサイトを見るときに、何ページもクリッ クしながら進む。どれだけ見たら、全体像をみたことになるのか不安になりな がら。それが、URLを入力すれば、マシン任せで出来上がる。

現状では、少なくともメモリは多く積まないと辛い。解析結果を出力する際に、 非力なマシンだと、ほとんどハング状態になる。メインではなく、サブマシン で試すことをお薦めする。でも、何よりも一番大切な「時間」が節約できる。 待ちさえすれば、Webサイト全体を見た気になれる情報の塊と対面できる。

何かを解析して情報を整列するだけで、こんなにも色々な事が分かるのだと感 心している。ここまでできているのなら、と展開案も続々と浮かんでくる。こ うした「解析」から、それらを比較検証する「分析支援」まで行ける。下手な コンサルは不要になる。

そして、R2では部分的にプラグイン開発ができる環境を用意した。開発元だけ が機能アップの権利を独占する時代ではない。次のヴァージョンでは、チーム 内のBlog的な「場」をサポートしようとも思っていた。日常の会話をメーラに 頼らずにトレースできる情報蓄積場が、どうしても欲しかった。

■「おまえは本当に現場を知っているのか」

こうしてR2は徐々に姿を現していくことになったのだが、同時に大きな問題が 見え始めた。私自身がWeb開発の現場にいないという矛盾だ。今の機能のニー ズは、私自身が格闘してきた歴史から来ている。そして自分が欲しかったもの は、同業者も欲しがるだろうという、勝手な思い込みがベース。

HTMLの実戦経験はそれなりにある。Flashもそれなりに最先端の開発手法に関 わってこれた。RIAコンソーシアムで様々な開発企業の苦労話も共有してきた。 でも、時代はもっと早く動きそうな気がしてならない。

「良いWebサイトとは」と問われれば、今も昔も答は一つだ。「ユーザが喜ん で使ってくれるサイト」である。それしかない。その基準に、開発者の苦労や 技術は何の関係もない。ユーザは冷酷であり、その分その笑顔が支えになる。

そして時代は、もっと「良いサイト」を目指す時代に入っている。その時にも、 Ridualが有効なツールであるためには、私は相応しくなくなりつつある。ずっ と指揮権を貰ってきたけれど、Ridualが良くなる程、私が辛くなってきていた。

R1でも同様の問題は持っていた。UTF-8で書かれたものを正しく解析できなか ったり(R1設計時に使ってる人はいなかった)、最新のJavaの環境で動かなか ったり(これは仕様を変えた方が悪いと思う)、Mac OSXでは画面上で文字化 けが起こる。様々な真っ当な言い訳はあるけれど、そんなことは関係ない。機 能を最新の現場に追いつかせる「力」がないのは事実なのだから。

また、Ridualに刷り込む知識の有無に関わらず、「おまえは本当に現場を知っ ているのか」という声にも悩まされ続けてもきた。実際にこう言われた事はな いけれど、安泰した会社が道楽でやっていると思われても不思議ではない。

■もっとWeb開発の深みを見たい

だから現場に復帰しようと決めた。年齢から考えて、現場に復帰できる最後の チャンスだ。決して楽な道ではない、全然天下りでもない。闘いに行くつもり で、NRIを去ることにした。もっとWeb開発の深みを見てみたい。

子供達がよりお金がかかる時期に、妻子持ちが取る行動ではない。でも、ここ 数年の私の精神的な不安定さからか、妻も納得してくれた。日本のWebを支え ているのは、大企業ではない。支えているのは疲弊しつつある中小企業である。 自分の立ち位置の矛盾に、ため息の日々が続いていた。机上の評論家になった かのようで、辛かった。だから決めた。

そして、上司に話し、チームメイトに話す。離れている開発者にもmailではな く、電話で伝えた。声で伝えるべきだと思ったから。でも、話す声が震えた。

一人は涙を流してくれた。頬を伝う涙に、言葉に詰まる。自分のワガママさを 思い知る。Ridualが自分独りの夢だと勘違いしていたことを実感した。申し訳 ない思いで一杯になる。とんでもない決定をしてしまったのかとも思う。

でも、現場にこだわらないと。こだわらないと駄目な評論家ツールになってし まう。そんなのに興味もなかったし、Ridualをそんなものに貶めたくはない。 もっと沢山の現場の人間の意見で機能アップを目指したいとさえ願う。

辛い報告を、関係者に伝え終わる。色々な想いがめぐる頭で、社員食堂に向か う。独りで珈琲を飲みながら泣けてきた。まるで安物の青春映画だ。でも、こ んなにも入れ込める仕事に出会えたことを誇りに思う。様々な出会い、沢山の 支え、嫌になる程の苦境、どれにも感謝している。何もお返しができなかった。

Ridualは、「Rapid Information Development + Visual」の頭文字+αから名 をつけた。Ridualの名を使うことすら、もうできなくなりそうだけれど、この 本質的な原点から、私が離れることはないだろう。

方法も分からないし、アイデアもないけれど、できることなら、もう少し現場 の知恵を集約してから、再度「Ridual」にチャレンジしてみたい。もちろん、 今のメンバー+αで。

使ってくれた方、見守ってくれた方、心からありがとうございました。

以上。/mitsui

ps. 実際に試せるモノを公開するには、弊社のセキュリティポリシー等の壁が高す ぎてできませんでした。なので、どのような画面が自動生成できるのか、どの ような情報が取れるのかが、何となく理解できる「紙芝居」をRidualサイトに 公開します(2006/3/14夕方予定)。
そして、ノンサポートですが「アルファ版」を数ヶ月間入手可能にします。興 味を持った方は是非アクセスを(2006/3/31予定)。
注意)アルファ版=何の保証もなく、自己責任のみで試す"勇気ある"Version