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[177] Stay hungry, Stay foolish.

あの日も、あの声を聞いていた。Steve Jobs' 2005 Commencement Address、超有名なStanford大学でのスピーチ。英語の勉強を兼ねて、最近はほぼこれだけをリピートして聞いている。そして、会社に着いてから訃報にふれた。私にとっての久々のデジクリ再開の初日の10/6朝(USでは10/5)。

Stay hungry, Stay foolish.
http://itunes.apple.com/gb/itunes-u/commencement/id384463719
(この一覧表の中の「Steve Jobs' 2005 Commencement Address」)
※以下に4つの訳:
  • ハングリーであり続けろ、バカであり続けろ(一般的な訳)
  • ハングリーであれ、利口者にはなるな(大谷和利訳 MacPeople)
  • 満ち足りるな、笑われても信じる道を進み続けろ(私訳1)
  • 満たされず求め続けよ、固定観念など捨ててしまえ(私訳2)
  • 何度も聞き、息づかいまで気にしながら、そして何度も訳してみた。そして考えた。何故、これほど惹き付けられるのだろう。何に輝きを感じるのだろう。私が輝きを感じるのは基本的に熱血にだ。ならば彼は何に熱く、何と闘い続けたのだろう。私の心は何に反応しているんだろう。

    このスピーチは、3つのストーリーからなっている:「点と線」、「愛と失意」、そして「死」。それぞれがどれほど感動的かは、客席にいた幸運な、ある意味世界一幸運な卒業生達の反応の変化からも読み取れる。騒がしさが徐々に消え、拍手が起こる。圧倒され息を飲んでる感さえある 。

    今やっていることが、点にしか見えなくても心配するな、振り返るとそれらはまっすぐな線に見える。若いときに一生取り組める世界に出会えることこそが至福だ、だから君たちも何としても探し出せ。人生に於ける満足は仕事に於ける満足に関わる、だから満足の行く仕事を成せ。人生は思いもしないような壁や崖に出会う、でも心配するな、最悪のことですら最良の入り口につながっている。全てを失うということから死を恐れる事はない、死は誰にでもやってくる。けれど時間は余りない、だから意識しろ、求め続けろ、探し続けろ。そして冒頭の言葉につながる:Stay hungry, Stay foolish.

    Stanford大学の公式mp3(上記)は、幾つか音声処理が施されている。最初に出回った音源(Youtube)には、時折発せられる、学生達の奇声が含まれているが、ここにはそれらがない。Jobsにして世界最高の大学と言わしめた、その大学の卒業生のお行儀は極めて悪い。しかし、対するJobsも悪戯っ子のように笑いを混ぜつつ、それを楽しんでいるように聞こえる。

    Jobsは、明らかに、目の前にいるお行儀の悪い子供達にエールを送っている。そして、それはStanford大学だから、ではない、おそらく。若者全員に対して同じ感覚で接しているように感じる。そして、とても真摯だ。真剣に語りかける、時間は余りないんだよ、と。

    自らの波乱の人生から幾つかのストーリーを紡ぎだす。それらが重みを与える。真似できない風格の中、叩き出して来た実績が圧倒的な存在で目の前にそびえ立つ。Macintoshが、ピクサーが、iPodが、iPhoneが、Jobsそのものが。

    でも、褒められたものじゃないよね、と聞こえる。自慢話じゃない。俺偉いだろうとか言っていない。俺でもできたんだから、君らもできるさ、と言っている。期待しているぞ、とさえ聞こえる。今にして思えば、任せたぞ、とも。

    そして秘訣を明かす。自分を信じろ。自分の内なる自分は本当に成したいことを既に知っている。だからそれに従えば良いのだ、人のいいなりになることなんかない。そして自己中心的な話だけでなく、自分も疑えと勧める。満足し惰性に流されることも、一ヶ所に定住することも否定し、高みを目指し続けろと背中を押す。

    Jobsは自分を窮屈に縛るものも、安住の地に縛る自分自身をも、とことん嫌うようだ。その意味で、彼の敵とは、人を束縛するモノ、定位置に留めようとするモノだと言ってもいいだろう。そしてそれらは、時に文化であり、シキタリや常識であり、他人や組織だったり自分自身だったりする。そしてその戦い方が凄まじい、妥協がない。心底「とことん」なのだろう。

    そのとことんやった男が、お行儀の悪い子供達を相手に、話している。その真摯が心を打つ。棒読みではない、演技でもない。今伝えたておきたい、という気持ちが伝わってくる。まるで「あまり時間がない」と言わんばかりだ。彼がこの場所で語るべきことを明確に意識し、その役を全うしている。

    そして、やはり考えてしまう。彼がとことん闘った相手、そうした敵が居なければ、Jobsは何処まで進み得たのだろうか、と。困難さが彼の強さを生んだのかもしれないし、実績を呼び込んだのかもしれない。けれど、逆風の吹かぬ地に、氏が立ったなら、どこまで行ったんだろうかと思いを馳せる。

    今はネコもシャクシも彼から影響を受けたといい、感謝を書き、俺も頑張ると叫んでいる。私のような者まで、氏について何か書きたくなる。そして、彼は唯一だと言い、彼のような英雄は二度と現れないだろうと言う。

    もちろん、Jobsは唯一だ。他の誰もJobsにはなれない。でも、彼が闘って来た強大な敵が少しでも弱まったなら、Jobsのようなことをできる人たちが少しでも増える気がする。同じJobsが再生することも生まれることもない、でも環境整備はできる。

    人を窮屈に縛るもの、安住の地に自分さえいられれば良いとするもの、とことんではなく、適当にお茶を濁させる何か。他人を縛って功を我が物とするする諸々、働く場に喜びと誇りとを持ち込まないようにブロックする悪しき諸々。シキタリだったり常識だったり、上が漫然とアグラをかいている組織だったり、そんなJobsが戦いを挑んだ対象が少しで減れば。

    Jobsの死を悼む人が大勢いて、でも少し前にアルカイダの指導者の暗殺を喜ぶ人も大勢いた。同じ命なのに。多くの献花やかじった林檎を見ながら、世界を変える方法は色々あると思い知らされる。そして愛おしく思われながらそれを達成することも可能なのだ。

    小さなデバイスで、心が震えた。ちょっとしたインタラクションが、どこででも聴ける音楽が、あたかも指先で情報を操作できるという感覚が、あの小ささが、あの薄さが、日々を変えた。その達成に非常な力が必要だからこそ、感動が深まる。そしてそのチャレンジが定常的に見れないことで、今大きな大きな喪失感を大勢の人に与えている。もうあのワクワクに会えない。

    Jobsは、「点」と「線」から自分の人生を示した。その一筋の光がどれほどこの時代を照らしたか。本人が自覚するよりも大きかったのではないか。でも次のJobsは「線」を重ねて「面」で時代を支えるように照らす気がする。

    Jobsのやったことは彼の力だけではないことは明らかだ。彼の率いたチームが偉大だったのである。彼が全てのワクワクを生み出したのではない、彼らが生み出して来た。Jobsという「線」が目立つが、その後ろに重なり合う、彼の思想に同調し、苦労を分かち合った仲間の「線」が幾重にも重なっている。

    Bill Gatesと並び時代を代表して来たJobs。技術者であり、企業のトップの名前を、普通の人までが知っている。そんな時代から組織の時代にシフトしている。Googleだ。でもGoogleを創設者の名前で語る事は少ない。でもIBMが社会を変えて来たときの社名の呼ばれ方とも異なる。IBMは世界を制したが、「ググる」にあたる言葉は与えられていない。でも明らかにどちらも時代を率いている。そして彼らが闘っている相手も、特にGoogleの本来敵としているものは、Jobsの敵とそう離れていない気がする。

    常識に囚われない、お行儀の悪い若者たちが 、良い意味で群れをなして時代を変えている。だから「foolish」であり続けろ、他人に蔑まれることも笑われることも気にするなと断じるJobsが輝く。その若者たちに真摯に語りかける姿が眩しく映る。若者を縛らず、開放するベクトル、そんな教育者の姿が脳内に広がる。そして、それを感じたからこそ、卒業生達が息をのむような沈黙をしてしまったのだろう。沈黙と拍手を受けて、スピーチの後、Jobsは「伝えたからね、後は頑張れよ」と言いたげな満足な表情を見せる。バトンはあの時渡されていたんだ、既に。

    WWDC2011の写真。奥さんに顔を埋めるように、終わったよ、走り抜けたよ、と囁いているような。あるいは、疲れたと言っているような。奥さんが涙目で応えているように見える、お疲れさま、お帰りなさい。小さな声で、そこまで頑張らなくても良かったのよ、と囁いているようにも見える。

    ▼Steve Jobs CEOと妻Laurene Powellさんとの2ショット- MACお宝鑑定団 blog(羅針盤)

    ようやく家族の元に帰ってこれたんだな、と思った。そう、家族や家族の一員としての自分にも視線をもってきてくれたのも、彼に感謝しなければならない点だ。言葉では言い尽くせない、でも、心からありがとう。生涯忘れません。

    以上。/mitsui

    ps.

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