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[182] そうだ!嬉しいんだ生きる喜び

ここ数週間同じ歌が頭の中で響いている。アレンジは、マーチ風の時もあれば、オーケストラ風の時も、シャウトしたようなものまで様々。微妙にその時の気分を察して、心の中で楽器が選ばれるように思う。

♪そうだ!嬉しいんだ生きる喜び
 たとえ胸の傷が痛んでも
   アンパンマンのマーチ/作詞:やなせたかし/作曲:三木たかし

息子達が小さい時によく一緒に見たアニメ。アンパンマン。以前から私の中では、ドラえもんより高評価(原作ではなくTV版の話だが)。某マルチメディアスクールで、講師を一瞬やった時には、教材的に使ったこともある。ストーリーの組み立ても、キャラクターも、背景などの近景から遠景の使い方まで、限られた予算の中で大健闘している。何よりも安心して子供を任せられたのも大きい。幾つかの話は息子達よりも真剣に見ていたかもしれない。

それにしても、こんな形で再会するとは思わなかった。今回の出会いの発端は、毎日曜日に通う教会の牧師。作者やなせたかしがクリスチャンであることもあり、孫との共有財産でもあり、かなりのお気に入りで、何週かごとに歌い、これは讃美歌だと力説する。

歌詞を探して、読み返す。深い。ただ聞くよりも、ずっと深い。とても子供向けのものじゃない。難しすぎると反対されたというのも頷ける。「胸の傷」とかそもそも通じるのだろうか。でも逆に幼児にそう歌われると、かなりグッとくる、とも言える。

♪そうだ!恐れないでみんなの為に
 愛と勇気だけが友達さ

今年高校を卒業する娘は言う、「愛と勇気だけが友達さ」は、寂し過ぎる、他に居ないのか、と。当時は友達とそれを笑っていたとのこと。でもね、その通りなのかもしれないんだよ、と思ってしまう。孤独の中で、自分の心の中に灯る何かとだけ連れ添って闘わなければならない時がある。そして、そんな風に闘える者が本当に強いんじゃないか、とか口から出そうになった。

愛とか勇気という言葉がためらわずに口にできた時代。そんな時期に、そんな言葉を心の底から大声で歌う。そして、諸々の現実の壁の前に、そんな言葉を口にしにくくなる。でも、年を取ると、やはりそこに真実があるように思えてくる。愛とか勇気とか、形のないものをよく言葉にしたなと思わされる。

そして、こうした歌を歌い続けて大人になったら、もしかしたら強いんじゃないかと思うようになってきた。疑いも持たずに、小さなときから胸を張ってこうした歌を歌い続けたなら、何かあったときでもふとこうした歌が口からでてくるんじゃないだろうか。そしたら、幾つかの不安は消し去るかもしれない。胸の傷が痛んでも、人生は素晴らしいと言えるかもしれない。言葉の持つ力の大きさを想う。

アンパンマンを見ていた頃、そのシンプルさにも感動していた。アメコミのヒーロー達のように、何故僕は皆の為に…と悩むシーンを見た事がない。私が知らないだけかもしれないが、さすがに1話15分という制約の中では無理そうだし、見ている子供達の望むものでもないのだろう。

♪何の為に生まれて 何をして生きるのか
 答えられないなんて そんなのは嫌だ!

アンパンマンは迷わない。自分の生きる目的に疑問を挟むこともない。ただ、皆のため、僕らの為に生きて行く。明快、気持ちがいいくらい。でも、当の本人は強くない。助けを求めた少年が、アンパンマンを助けることの方が多い。でも、迷わない。そこが大事なのかもしれない。結果と目的とは必ずしも一致する必要はない。

また、迷っている暇もないのだろう。牧歌的に見えつつも、人生を楽しむ為に彼らは精一杯なのだ。一緒にお茶を飲んだり、散歩したり、たわいもない日々が重要なのだとも言われている気がする。自分に課せられた使命や目的を再考する時間など持つ必要はなく、そんなことを考えて立ち止まるよりも、一緒にお茶を飲んで楽しもうよ。原作の持つ、ある意味終戦後の物悲しい空気を一掃して、焼き上がったパンの香りの豊かさで、アニメ版は満たされている。

さて、現実の世界の話である。複雑に絡み合った諸々の壁が、バイキンマン以上にしつこく行く手を遮る。先を行きたい自分も、アンパンマンのように一途にはなれず何度も立ち止まって色々考える。

♪今を生きることで 熱いこころ燃える
 だから君は行くんだ微笑んで。

ネットは一巡してしまった感がある。何もない所から、一見なんでもありの世界へ。もはやネットにないものは存在しないかのようだ。でもネット越しに見える世界だけが、本当の世界ではない事を震災はまざまざと教えた。それでも、生活の一部として、ネットはもはや不可欠なライフラインとなっている。そして、多くの新デバイスがこれでもかと登場しては、一部は定着し、多くは消えて行く。

♪時は早く過ぎる 光る星は消える
 だから君は行くんだ微笑んで

時代が変わり、キャッチーなものよりも、より安定した仕組みとしてのWebが求められ、0から1を創り上げて来た熱気が冷め、1から2を3を5を生み出す熱気が以前とは違う形で沸き上がっている。「だけど」行くのではない。「だから」行くんだろう。Web屋としての使命を少しでも感じているのなら。

以上。/mitsu

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【アンパンマンのマーチ】Jazz/ロック/アカペラ…こんなにある”♪たとえ胸の傷がいたんでも” - NAVER まとめ