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[044] Flash Conference 2003

Flashに特化したカンファレンス。Flashの様々な顔を間近に見れた一日。公式発表はまだないけれど、約2000人。当初1500人目標とどこかで聞き、しかも有料で大丈夫かと心配したのは、老婆心もいいところだった。

構成は、午前中にキーノート。CEOロブ・バージェス氏、お馴染み田中CTO、そしてドコモの夏野氏。午後から3トラック(デザイン/コンテンツ、アプリケーション、デバイス)各3セッション、計9セッションが行われた。そして全セッション終了後にFlash系コンテストの受賞作品紹介。セッション会場の他に、各種スポンサーの出展ブースコーナ。

私が話したのは、アプリケーショントラックの2番目、「Flashアプリケーションの開発と機能としてのインターフェース」。Flash技術集団として有名な2ndFactoryの齋藤さんとの異色のコンビ。実は開催前には「何故、NRIなんかに?」とも言われたヒヤヒヤのセッション。

しかし、プレゼン資料と格闘している2日前の深夜に送られてきたmailには、事前登録712名とあった。プロフィール的には、ややエンジニア系(36%)がデザイン系(32%)より多い程度。経営者層も13%程いて、少しFlashに関心を持つ層が変わってきているのを予感させた。

会場ではもっとそれを実感することになる。会場は満杯。2ndFactoryの知名度が半分以上の原因だろう。しかし、スーツ姿の方も目立つ。やはり、客層が変わってきている。話し始めたときは緊張して余り会場を見れなかったけれど、少し慣れてきたときに気がついた。立ち見客の中には床に座り込む方たちがいる。

時々無理を言って参加させてもらっているアメリカのカンファレンスみたいだ。アメリカは嫌いになったけれど、あの雰囲気は今でも好きだ。それこそ老いも若きも、好きなところに座って、自由に議論する。話を聞いているだけじゃない。私の英語力では分からないところも多いけれど、髪逆立ててピアスをうじゃうじゃつけたようなデザイナが意見をいい、それに対して初老のスーツ姿が真剣に頷きながら意見する。そんな意見の応酬はすがすがしい。今回は議論こそしなかったけれど、真剣に画面を見詰めてくれる床に座り込んでる方々を見ながら、数年前のギラギラしてHTMLの技術を身に身に着けようとシャニムになっていた頃を思い出す。私自身も次のセッションは床に座りこんで聞き入った。お尻は痛くなったけど、なんだかホームポジションに感じる。

なんだか元気のなくなってきているようにさえ見えるWebの世界で、こんな熱いものって、Flashの他にあるんだろうか。いや、Webを離れても、これだけの年齢層の幅に受け入れられ、これだけの多彩な才能に注目されている技術が他にあるんだろうか。もしかしたら、ゲームやアニメーションの世界にはあるのかもしれない。でもこの程度の告知で2000人を集客できるものは少ない気がする。

当初は前半後半で分けて話すというストーリーだったけれど、一緒にやったプロジェクトもあるので、テーマ毎に交互に話そうということにした。もう少し齋藤さんに話してもらった方が、聴いている方の希望に添えたかもしれないと反省をしたのだが、2人で合意した路線は、「デザイナもエンジニアも変わろうよ」。今のままでは立ち行かないよ、というメッセージ。

デザイナには見た目のデザイン以上に操作性のデザインへ、エンジニアにはDBばかりでなく操作する人間も含めて「システム」なんだよ、と。メッセージだけじゃなく、実際に時間入力のFlashアプリを開発する上で、どんな経路を辿ったのかの例示、私の方からはエンジニアがデザイナに歩み寄るにはどんな方法があるのか等を話した。図に乗って、Macromediaさんの情報提供のあり方等にも注文をつけるような発言までした。

絶対に時間が足りないだろうと言いつつも、予備のプレゼンを用意していたのだけれど、結局それもお見せした。それでも終了は予定の2分前。何か話し忘れたことがあるかもしれない。

齋藤さんも日頃、システムインテグレータ(SIer)と仕事をする上で感じている改善点に触れ、私もSIerとしてデザインに取り組む重要性を踏まえて語った。準備段階で二人で話すとき、どこまでが世間の常識で、どの辺りから聴いてもらって喜んでもらえるのかが分からなかった。だから、Macromediaの方にも、何度も質問した、「これで面白いですか、聴く価値ありますか」。

講演後何人かの方が来てくれた。若い方が、「良くぞ言ってくれました」と感想を伝えてくれたとき、この講演の話を受けてよかったとゾクっと来た。私より年配の方が、「我々も同じ苦労をしているのです」と口にされたとき、こうした悩みと格闘しているのは自分達だけじゃないんだと励まされた。各人所属している組織の利益とか縛るものは存在するけれど、それとは違う次元での連帯感。Flashという共通基盤の上に住むものとしての連帯感。しかも、心地よい連帯感。あぁFlashに出会えて良かった。

でも講演を終えて少し考えた。私はこのプレゼンのために用意した画面は46枚。齋藤さんは8枚程(動きが付いているので枚数は数えにくい)。しかし、講演を聴いた方の脳裏に焼きついているのは、恐らく齋藤さんのあのインタラクティブな映像だろう。う~ん、デザイナってずるい。でも、それがデザインの「力」なんだと思う。エンジニアはこれを活かさないと。

尚、齋藤さんのメインメッセージは、ユーザーインターフェース(UI)の重要性。ここは、違うセッションを聞いたときにも考えさせられた。現在、Flashは単にパソコン上のブラウザの枠から飛び出そうとしている。少しだけ聴いたデバイスセッションでは、組み込みの世界でもFlash活用の道筋は出来上がりつつある。これは、その世界のUIデザイナが求められる、ということである。パソコンという世界以外の制約がある中で、UIの良さを追求していく、そんな道もFlashの先にはある。Flashの懐は深い。

色々と他の感想も書きたいけれど、私の最大の収穫の話を最後に。この1日の最大の山場は、実は最後の最後に来た。そのflaファイルには、連夜のプレゼン準備で襲ってきた睡魔も敵わなかった。一気に目が覚めた。

だらだらと続くFlash受賞作品紹介の最後に登場したのは、山本真也氏。作品は「SINPLEX SHOW」。落ちてくる水滴にカーソルを合わせることで作品の行き来ができるインターフェース。ご自分でも操作しづらそうだったが、見せてくれたのは、ブランコの周りにたむろする親子。3人の子供達がそれぞれのスタイルでブランコに乗っている。お父さんが小さな子のブランコの反動を付けてあげている。ただそれだけ。延々続く。映像は全てシルエット。白画面に黒の人影のみ。

それが活き活きしている。同じ動きが続くだろうと予想はするのだけれど、見入ってしまう。よそに行けない。山本氏が言うように、ブランコの軋む音まで聞こえてくる。白黒シルエットが、夕日越しのシルエットに見えてくる。お父さんが押してあげている子供の動きのソースを見せて解説してくれた。考えて見れば当たり前だが、全て手書きでモーションをつけている。この「次女」は...と山本氏は切り出す。この作品の家族構成まであるのか。その次女はお父さんに押されて、足をバタバタさせて喜んでいる。もう嬉しくてしょうがない。その気持ちまで伝わってくるflaファイルは、最早職人芸としか言いようがない。ただただ微調整の世界だ。細かく組み立てられた動きの仕組みを見せられながら、山本氏のこの作品にかける愛情が見えてくる。ここまで愛されたswfは幸せだろう。

これはFlashに限ったことではないのだろう。どこまで心血注いでいるか、これが相手の感動を揺さぶる。Flashの魅力に浸れる一日。朝から、技術・戦略・効率・効果・利益...様々なFlashの横顔を見てきたけれど、最後の最後に、Flashの原点というかモノつくりの原点を見せつけられた。思わず姿勢を正してしまった。

ref.

以上。/mitsui