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[112] Web投資の今後

■発注者側の姿勢が変わってきた

最近、Web案件の話に少し変化があるような気がしている。発注者側の姿勢が ちょっと違う。話の場に出てくる方々が、総じて若い。そして、決裁権や予算 枠を確実に持っているケースが増えてきた。

少し前までは、カップクのよい部長級とその部下達が、少なくとも最初の打合 せの間は相手だった。その会議の場で、我々の説明を、その部下がほとんど同 じ言葉なのに多少言い換えて、部長に説明しなおす場面にもよく出くわした。

何度かそうした通訳費のかかる会議を経て、部長クラスは退場していくという のが常だった。言葉も感覚も読みも全く異なる人種達が、ずっと同じテーブル を囲むには無理があった。「あとはよきに計らえ」とまでは放任されないが、 部長の年齢が高いほど、早めに現場に権限が降りてきた。

世代交代が進んできたのかもしれない。思えば、Webの黎明期には、会社の玄 関が必要でしょうという論法で、とにかく自社サイトを作らないと時流に遅れ るという雰囲気があった。そして、それは当然会社を背負うようなプロジェク トであり、重役が任を負うことになっていた。

しかし、ネットバブルも経て、Webサイトが当たり前の存在になってきた辺り から、そうした重役級を煩わせることもないという判断が出されるようになっ てきたようにも見える。会社として把握しておくべきは、プロジェクト予算で あり、それが常識範囲内に入っていれば、現場を信じてよいという流れも出て きているのだろう。

若い世代も賢くなっている。Rich Internet Application(RIA)系の話では、 よく「会社を騙して予算を確保した」という言い方をする人がいる。詐欺をし ている訳ではない。前述の「通訳」の部分で、多少の意訳と不正確な表現と熱 い想いを混じえて提案を押し通したレベルの話だ。

会社に真っ正直に申告して予算を確保するよりも、少しごまかして、誰にも迷 惑をかけない「財布(たとえば研究開発費。この額は投資家達には今後の伸び 率の指標になるので、ある程度は大きくないと会社としても困る)」を用意し た上で、活きの良い制作会社と組む。そして、それは自分の利益と言うよりも、 それこそが会社のためになるという信念の下に行動を起こす。

更に、会社も単に騙されるほど馬鹿でもなく、Webを見回すこともない部長級 にそうした権限を与えておくより、日頃からネットなしには生きていけないよ うな若手に任せたほうが、面白いことをやってくれそうだと期待と計算をして いるようでもある。

そしてタイミングよく、個人情報保護法やセキュリティ対策の比重が高まって くれた。若手にとって、少し億劫なこの手の話を、老練な御仁たちがてきぱき と情け容赦なく固めていく。振り回されると大変だが、分業できれば互いの長 所を活かすコラボレーションが成立する。

部長クラスと、敵対でもコキ使われるでもなく、分業体制が組めたなら、肝心 の予算確保の時に頼もしいパートナーになってくれる。先方も「今時の若い者 は」とボヤく前に、シャカリキに徹夜も厭わずネットに埋没する若手を見れば、 同情心や親心が揺れない訳もない。

言葉は悪いが、老兵は自分の目の届かぬ場所をちゃんと知っている。自分の研 ぎ澄ましてきた感性の及びもしない世界の存在を分かっている。そして、特に Webは、どこにでもあるような「無難な策」を採ることが無駄なことだとも、 そろそろ感づいている。

玄関がないことも恥ずかしいが、個性のないどこかで見たようなサイトも、本 気を疑われる要因になることも知っている。誰もと同じでは生き残れない、投 資の意味がない世界。正しく、とんがってこそ、ユーザに届く世界。

変にプライドがこじれると振り上げたコブシの降ろしようを忘れてしまうが、 冷静に競合サイトとじっくり比べれば、自分の好みや気分で決めて勝負できる 世界でないことも知っている。そして良いモノを作るにはコストがかかること も知っている。

■発注者側も「育成」のフェーズに

全てがドラマのように巧く噛み合うことはないかもしれないけれど、こうした 小さなパーツが少しずつ重なり合って、様々な形で、今までにない形のプロジ ェクトが生まれつつある。

会社やその他調整は任せてくれ。クリエイティブな部分で、「力」を発揮して 欲しい。そんな意気込みが伝わってくる会議も、ポツポツと出てきている。何 でもいいから提案してよ、みたいな、ヤル気も予算もグレーな発注元が絶滅し た訳ではないけれど、我々受け手の方も対応の仕方を心得てきている。

発注側も受注側も、ネームバリューだけでは生き残っていけない。Webの本質 は、様々な役者達が直接接点を持つことにある。ただ情報を受け渡すだけの、 中間マージン搾取層は不要だ。生き残るのは本気のところだけでいい。

そういう感覚すら広がっている。だから、大きな広告代理店やシステムインテ グレータ(SIer)に頼むような仕事が、小さな活きの良いベンチャーに流れて くる。もちろん、まだ手探り状態。発注して大丈夫かなぁと恐る恐る手を伸ば しているのも感じ取れる。

会社規模が大きくなると、重役会議で話を通すときも、無名の会社に頼むのも 結構辛い。でも名だたる企業に、「面白いこと」を期待するのも望み薄だ。更 に、会社の今後を考えておくと、「いま手を出しておくべき分野」という旬の タイミングも存在する。権限を与えられた若手が、自分達なりの力で会社の未 来を支えている。

発注者も受注者も、実績を喉から手が出るほど欲しい。だから、チャンスを与 えようとしてくれる。いずれ大きなプロジェクトを一緒にしたいから、小さな 案件から出そうとしてくれる。

Web制作企業が新卒採用を始めるように、発注者側も「育成」のフェーズに入 っている。毎回プロジェクトのたびに新しい制作会社を探していくという、コ ミュニケーションコストの馬鹿にならないことも学んでいる。自分達のことを きちんと理解してくれる遊軍のような存在として、Web屋と密接になる準備を 始めだした。

数年前の、安い価格で発注し続けた結果、力のあるWebデザイナーの生活が破 綻し、そのツケが発注者側に回りまわってきたという自覚と反省もある。チー プなWebサイトやWebアプリで、結局エンドユーザーからの信頼を失なったのは 発注者だったのだから。

Webという舞台に上れるキャスティングが、徐々に贅肉をそぎ落とし、本来あ るべき人達に絞られているのが伝わってくる。Webが見かけの担当から、単に 売上だけでなく、マーケティングなども含めた「実利」を導く役を担うように なってきたからか。プロのWeb屋がこれから益々必要とされるだろう。

以上。/mitsui

ps. 4/28、来てくださった方、ありがとうございました。資料(5M)です。 swfで、右クリックで拡大効きます。話せたのは上下の三つの円の弁図たち。