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[200] Web担当者の資質と未来

出版の当てなど微塵もないのだけれど、原稿を書いている。最初はWeb制作者向けのノウハウ本のつもりでキーを打ち始めた。今までやって来たことの総集編というイメージで、Webプロジェクトを進める上での大切なポイントの俯瞰図みたいなもの。でも書き進めるうちに、イヤイヤと方向性を変える。Web担当者向けの本こそ必要なんじゃないのか、と。

「2017年までに”マーケティング部門のIT予算”がIT部門を上回る」
米ガートナーが提言する4つの破壊的なITパワーの衝撃
EnterpriseZine http://enterprisezine.jp/iti/detail/4283

私は幸運にもこれまで、発注者側にも制作側にも属して生きてこれた。最近は作る側というか、お仕事を頂く立場で生きて来たけれど。上の言葉は、その発注元が大変動を起こすということ。お金の降りて来る道が変わる。

Webが、PhotoshopとHTMLで出来ていた時代は遥か遠い昔で、今はマルチデバイスとITとビックデータ(解析)で出来ているように感じる。「ユーザ体験」は重視されつつあるけれど、リッチな体験というよりは、スピーディーな体験が求められている。「いつでも何処ででも」、そういう言葉で示すなら、原点回帰しているとも言える。けれど戦略立案の部分で経営に段違いに深く絡まった感は否めない。情報を社会に流す意味合いが変わって来た。だから、発注者のキャスティングが変わると言われれば、合点も行くし、反論はない。

合点はいくが、不安が募る。制作会社にいた頃は遠慮して表立っては言わなかったけれど、私はWeb担当者の質がこの十年で上がったように感じていない。恐らくは、求められる資質が広がったためだろうけれど、ここに大きなボトルネックがあるように感じていた。この地殻変動の先に、果たして明るい未来が待っているのだろうか。

私が今考えている、Web担当者の資質は以下の6つ。どれも必須の資質だし、今までご一緒させて頂けた、感動的Web担当者はそれぞれ独自のスタイルで全てを持っていた。

 ▼Web担当者の持つべき6資質:

  1. チームを編成し装備を整え、険しい山頂を目指す、登山隊のリーダー
  2. 24時間365日、店内の全ての商品に気を配り続ける、コンビニ店長
  3. パーティから夜食ごはんまで、贅沢な食材/アリモノででも最善の食卓を目指す、料理人
  4. 技術/チーム/個人/タイミングを見極め、伸びるものを伸ばし切るべきを切る、剪定師
  5. 様々な事柄を様々な人に分かってもらえるよう、言葉を選び伝える、通訳者
  6. 常にアンテナを張り、求めない人の所へも行きかねない、おせっかいお見合いオバさん

もちろん、独力で全員に成り代わるのは至難の業。だからこそパートナーが必要。登山隊のリーダーに、ザイルパートナーやシェルパが必要なように、短期ではなく、長期にわたって適切なアドバイスと阿吽の呼吸で仕事を任せられる人材。それも、知識(Interigence)/技術(Technology)/表現(Expression)という3つの分野で。それに自社の戦略(Strategy)が揃って「SITE」になるために。

最近誤解しているんじゃないかと思うのは、これらの資質を外注が持てば良いと思っている人が増えて来ている点。金を出すからサービス規定通りに任せて「後はよろしく」と思っている人たちが少なからず居る。有料サービスとして提供されているものが、ちゃんと機能するのは当たり前なので間違ってはいない。でも、何か大切な要素が欠落して行く兆しを感じる。

額に汗し種を蒔く者が喜び収穫をする、それがドラマの主人公の姿だ。主人公がリーダーシップも発揮せず、便利なサービスを買って組立てて、ビジネスに成功する。その成功の裏にはインドの重労働子ども達がいるかもしれないし、どこぞの劣悪な工場労働者がどれだけいても気にしない…そんなドラマに感動する人は余りいない。

だから、企業の描く「企み」の主人公が、外注さんという設定はあり得ない。その企業の中の人でないと、どう考えても困る。そうでない状況を、空洞化と呼び、盛んに問題視して対策を練り打っている分野だ。ドラマでは、様々な障害に足をすくわれつつ、本質的なことと格闘しながら成長して行く姿が心を揺さぶる。でも、これは絵空事だからではないと思う。実際にも期待されている姿ではないだろうか。極論すれば、どのプロジェクトだって「プロジェクトX」だ。

顧客やユーザへの関与という言葉が使われ始めた。「関与」した結果を、快く受け入れて欲しいと願うのであれば、継続的な関係がどうしても必要だ。関与され反発される場面をイメージするには、ろくに個性も見てもいない教師が生徒に関与してくるような場面を想えば良い。常に親身に傍に居てくれる者の言葉でないと、人はなかなか受け入れない。それは誰かにお任せしてしまうような状態ではなく、真剣に本人が傍に居るという状況を指す。

そう考えると、やはり主人公には頑張って頂かないとしょうがない。Web制作者は黒子でしかない、助演男優賞/助演女優賞しかありえない。種蒔きも刈り取りも苦労も喜びも、全部主人公あってのものなのだから。「苦労は部下や外注、名誉は俺」のような残念な輩が主人公では、悲劇過ぎて救いがない。

この景気低迷のさなかに、日本の企業が求めている道は、こうした苦労を厭わぬ顧客へ寄り添う道しかないように思う。ダメダメUIのWenサイトで苛立っていたのは、実はUIやユーザビリティにではなく、こんな画面でお客対応しているつもりになっている企業そのものへだったのかもしれない。姿勢自体が問題なのだ。

だとしたら、やはりWebはその最右翼に位置する。もうデカい看板を立てる流れはないだろう。TV離れが叫ばれているのに、CM大投入も少し的を外している気がする。Webこそが姿勢を鮮明に打ち出せる舞台だ。WebでITの力を活用しながら、細やかなサービスや配慮を提供して行く日本企業。そしてそれは日本だけでなく世界でも通用する品質。それが本来かつ望まれる姿だろう。

Web担当者の質を兎や角言う前に、作り手の品質を上げろよとも自覚する。でも、車の片側のタイヤを装甲車並みにしても、他方がそうでもなければ、全体としてはヘビーな戦地には赴けない。両方が相まって強まって行かなければならない世界だ。そして制作者側には競争が分かり易いけれど、担当者側には師も少ないし、育てる道は未だ余り整備でいていない。根本的に情報共有できていない部分が多いのだろう。競合他社を育て、敵に塩を送るようなものになりかねないからだ。

でも、競合に対する意識は、Web制作者だって同じだった。でも驚くほどアッケラカンと公開しながら、この業界は成長して来たのも事実だ。それを受けてか、徐々に状況は変わって来ている。発注者側の共通の土台作りに関しては共同で整備しても良いのではないか、という機運が見える。それが、企業ウェブ・グランプリなどの動きを後押ししている。

Japan Web Grandprix | 企業ウェブ・グランプリ
http://www.web-grandprix.jp/

広報部や情報システム部が主体だったWeb戦略が、経営戦略室やマーケティング部のようなところにシフトしつつある。だから他社の人に話せないことも増えて行く。でも共通の部分もある。発注者を巻き込んだウネリの中で、Web界で語られる言葉すらも増々変わるだろう。Webがこれまで同様変化し続けることを覚悟するようにと言われているかのように感じる。

これまで、このコラムでは、現状を悲観することが多かった。高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」を引用して、ボロボロな業界を嘆いたこともした。でも、次なる大変革の先には少し薄日がさしてきている気もない訳ではない。それは確実に若い芽が伸びて来ているせいでもある。

私はエンジニアとデザイナが幸せに共存できることを願ってこの業界の端っこにしがみついているけれど、デザイナともエンジニアとも分類できない人たちが明らかに育っている。下記のように「PhotoshopはWebデザインツールではない」と言い切る姿などは、爽快にすら感じる。そりゃそうだと振り返りつつ、何を七面倒臭く考えていたんだろうと、目を開かされる。

 ▼最近見つけて感動したプレゼン(場所が広島というのにも感動)
”HTML5 Web Design Workflow”
http://www.slideshare.net/gaspanik/html5-web-design-workflow
”IAから見たWebの世代遷移と、html5時代のIAについて”
http://www.slideshare.net/yukiyakushijin/20121022-ia-meetshtml5short

時代は進み、業界としては明らかに苦しくなって来てはいる。でも、こんがらがって来た仕組みを何の苦もなく飛び越えて行く若者たちがいる。でも、考えてみれば、我々の世代だって、黎明期に様々な仕組みを平気な顔して壊して来た。お役所的な規則でがんじがらめの会社に入り込み、「ささっと公開しちゃいましょうよ」と、スーツ姿の部長らに、ジーパンで臆面も無く口にしてたものだった。きっと何人もがヒヤヒヤし、苦虫をつぶしたような感じを受けた者も居ただろうけれど、爽快感を感じてた人たちも居たはずだ。何を七面倒臭く考えて来たんだろう、と。

話を本に戻そう。Web制作者向けの本は沢山ある。Photoshopの使い方や、Dreamweaverの秘技、どうすれば100本ノックを防げるのか、PMの極意まで、百花繚乱だ。でも、それを全て会得できたとしても、バラ色の未来が待っている訳ではない。やはり両輪で育って行かないと業界としてヤバい。

今は個人で電子書籍で出す方法だってだいぶ簡単化して来た。まとまった原稿が誰かや何かを支える役目を負えるかもしれない。会社から離れたこの時期、諸々のことを整理する時間にしようと決めた。何らかの形にできればと思っている。

今期の連載はずっと「言葉」を冒頭に出して進めて来た。最後は最後に言葉を持ってきたい。自分がやれる「善行」とは何だろうと考えながら。色んな善行が重なり合って、次世代の扉が明るく開くと信じつつ。

今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。
それでもなお、良いことをしなさい。
ケント・M. キース それでもなお、人を愛しなさい―人生の意味を見つけるための逆説の10カ条

以上。/mitsui

  • 現在フリーというかプータロー。お仕事に誘って頂けたら幸いです m(_"_)m
  • ついに、200回目。断続的ではありましたが、200本、とにかく投げさせて頂きました。約十年、長かったぁ。誰が受けてくれてるのかと不安で、編集長とデスクと私しか読んでないんじゃないかとか目線を下げた時期もありましたが、また一区切りの時となりました。私にとってこんなに一つのことを継続したのは、結婚生活くらいじゃないだろうか。…もしも可能なら、未だどちらも続けて行けたらと思っています。復帰した時には、よろしくお願いします。再見。
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