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[168] 経営者:孤高の舞台、孫さん

ソフトバンク(SB)の孫さんが舞台に立っている。会場は東京国際フォーラム ホールA、舞台はソフトバンクアカデミア、講義テーマは「意思決定の極意」。次期経営者の育成と公募を目指す異例の講義群。

▼ソフトバンクアカデミア公開講義 SoftBankCorp on USTREAM. 会議
http://www.ustream.tv/recorded/9868282

2時間半、孫さんはステージにたった一人立ち、巨大スクリーンに映し出される映像を素材に話し続けた。「極意」と言っても、決断の仕方を伝授しようとしてはいない。多分それは教えられない領域なのだろう。話された内容は、ソフトバンク30年の歴史。各要所要所で起こる難題と、その時に下した「決断」の事例集。

30問の二者選択解答用紙(問題番号とA/B欄のみ)も配布され、あなたならどうしたかを書き留めるクイズ形式も用意されている。聞くものを飽きさせないための配慮のように思え、企画側の姿勢も垣間見える。前提条件によって答えはどうにでもなる難題ばかり。だから正解はない。でも共に考えられる。

孫さんは、決断とは「決めて、(ボツとした選択肢を)断つ」ことだと切り出す。一方を選ぶことは、即ち他方を捨てることだ。決して両方をと欲張ることは叶わない。けれど、語られる言葉は柔らかく、どちらかと言うと未練があり、スパッと決め切れなかった余韻が感じられて、逆に興味深い。

そもそも、「孫さん」などと呼んで良いのかという存在のはずだ。しかし、今や主にTwitterを通じて、お父さん犬以上に親しまれている(逆に敵視もされているのかもしれないが)と言えるだろう。IT業界で、逸話を知らないことこそが恥にすらなりつつある。話を聞き進むにつれ、それ(ブランディング)すら次世代を見据えたものに感じてくる。巧さにもその戦略にも諸々考えるところはあるけれど、誰もがやれることではない。その行動力に学ぶべきところは山のようにそびえ立つ。「やりましょう」の重みか。

クイズ形式の方は、実際のSBの歴史を知っていれば、あの時そっちに行ったよね、と思い出させられるイメージ。全てを知っていた訳ではないけれど(あぁそんなこともやってたっけ、という感じ)。でもその裏で信じ難い巨額の資本がやり繰りされ、動いている。見た目の派手さがないところでの決断が下支えしている。

その度に断腸の思いの決断があり、(社内)説得があったようで、目頭が熱くなるエピソードも多い。自分の会社ではあるけれど、自分だけの会社ではない。それでも、例えば「日本のブロードバンドを世界一に」というテーマに関しては、頑として譲らない、譲れない意志がひしひしと伝わってくる。現場に下って陣頭指揮が熱い。風呂にも入れないから臭いんだ、ということがやけにリアル。数秒で語られる各思い出話の裏に山ほどの想いがひしめき合っている。

赤字事業と天秤にかけながら、譲れない部分で衝突すると、とんでもなく高く分厚い壁になるのだろう。エピソードからも、泡を飛ばしながら社員を説得したシーンが何度も出てくる。譲らない経営者の下で、やはり譲れない社員が集い育っていったからかもしれない。しかし、それがSBとしてのアイデンティティなのだろう。会社規模から考えて、全社員が同じ思いで突き進むのは難しいだろうが、特に最近の露出を通じて、実は益々トップの意志は広まり強固になっているプロセスを見せられてもいる。

同じ、東京国際フォーラム ホールAでの株主総会の話が沁みた。何度も経験している危機的状況の中でも最大級の過酷さの中だという。6時間延々と全て自分で質疑に応えたそうだ。株価暴落の中、詐欺師/ペテン師/泥棒との怒号がとんだ、辛かったという。「本当に辛かった」、短い言葉の中に万感の思いが伝わってくる。でも、そう語る彼の後ろに、そのままの文字がフキダシ調に映し出されている。会場から笑いが漏れる。語る孫さんも笑って語れるほど消化しているし、そんなことに囚われている場合じゃないという前進思考オーラが逆に漂う。既に過ぎたこと、更に多くは学んできた、という自負。

アウェーの中のアウェー。そんな株主総会も、一人の株主の発言で、怒号から拍手での終幕へと変わったという。詳しくは本人の言葉で接した方が良いので書かないが、人と人との繋がりを感じる。まるで映画だ。事実は小説より奇なり、リアルは想像より重し。支えられていることを、孫さん自身が感じ感謝しているのも伝わってくる。

もっともっと語りたいのだろう。今考えていることを伝えたくてしょうがない。一人の命には限りがある、でも志や夢やビジョンには限りはない。どこまでも行け、そんな風に背中を押したくてしょうがない。老婆心なのかお節介なのか、教育者なのか。ビンビン響いてくる想いに、倦怠感とか沈滞感とか言っている後ろ向きの風潮に、批評している暇があったら励ませよと、自戒の意味も込めて感じる。

この業界にそこそこいるから、SBが繰り出してきたサービスも本も品質もそれなりには知っている。安かろう悪かろうという時代も知っている。それが許されるかどうかは置いておいて、SBのチャレンジがなければ、「今」はなかった未来だったのだろうと思わされる。

いや勿論、孫さんがいなければ、あんな闘い(対NTTしかり、対経産省しかり)をしなかったなら、他の人が立ち上がっただろう。それでも、お父さん犬には出会えなかったかもしれなし、「やりましょう」にも触れられなかったろう。

一人の大きさを感じつつ、一つの組織の大きさも感じる。存在感、そして存在価値。決断の結果もたらされるものと、失われたもの。迷いながら、未練を残しながらの決断、意識や覚悟も用意する間も与えられずの致し方ない決断、様々な蓄積が、色んなことを教えてくれる。そして、こんなチャンスを作ってくれた孫さんとSBに感謝したい。

日本のブロードバンドを世界一に。その夢はかなり実現してきている。競争が生み出す世界の強さや大きさも多くの人が体感してきた。次は、その中身か。道ができてから考える、先ず形から入る。日本のインターネット史とSB史を見返すと、極めて日本人的な道筋なのかもしれない。でも、あと50年も経てば、そんなことにそんなに時間をかけてきたんだと笑われるべきことかもしれない。いや、そうなることを目指しているのだろう。

SBの広告塔を担いつつ、別の起爆剤を仕込んでいる。「勇ましい人が多いですね」と何度も口にした。言うは易し、やってみろと挑発にも聞こえる。そんな孫さんをいつの間にか応援している。すっかり手の内だ(笑)。

以上。/mitsui

PS.
今や、妻と娘はSBユーザ、私は(笑われながら)Willcom。息子のみがDocomo。かなりSBよりな家庭環境になってしまった。そしてWillcomにはSB参戦のおかげで、Hybrid Zero-3が再販され、未だ未だ苦しそうだけど、頑張っている感が出てきた(Yahoo!オクがadesで最適化されないとかはあれど)。良いことだ。何かやってる感は伝えないと駄目だし、旗振り役にとっても損なのだろう。

それでも?、iPadを教育現場、特に初等教育の場に持ち込むのは反対です(笑)。昨夜終電で、女性が音符を前にピアノを弾いていた。目を閉じて、真剣な表情で、指が軽やかに紙の上で舞っていた。彼女にとってはグランドピアノが見えているのだろう。この想像力を子供たちに育てたい。iPadは便利に使うものであって、どうすれば便利になるかを想像するには便利すぎる。

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以上。/mitsui

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